ささやきはピーカンにこだまして
 ちがう。
 ち…がうの!
 いつのまにかわたしは妙な泣き笑い。
 (じゅん)がおずおず伸ばしてくる腕に、ストップをかけて。
 準が驚くのもかまわずに、準の白いポロシャツの胸で涙をふいた。
「泣かしたんだから、ね」
「ん……」
 おとなしくされるままになってる準が愛しくて。
 そのまま準の胸に頭をこつん。
「どうしてわたしだって…わかった?」
「何度も…振り返ったでしょ? ぼくのこと心配そうに……。ぼくはバスのなかから、ずっとあなたを見てた。――見てたんだ」
 そうか……。
「まさか…中等部の子だったなんて……。思ってもみなかった。遅刻したのね」
「あのときも……、風邪ひいてたんだ」
 わたしのおでこの下で、準の心臓が、ごとん、ごとん。
「わたしにはピーコートしか、見えなかった」
「よかった。…少しは覚えててくれたんだ」
 ずっと忘れてないよ。
「ちゃんと…、ちゃんとおぼえてる。あのひとの指。あのひとの髪……」
「…………」
 準が息を飲む。
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