ささやきはピーカンにこだまして
「もう一度……会いたかった」
「…………っ」
 細く、長く吐きだされる(じゅん)の息が耳たぶをこする。
 ねえ、準。
 わたしもフェイント、じょうずでしょう?
「元気な姿…見られて…うれ…しい」
 準の心臓、とく、とく、とく、とく、早くなる。
一路(いちろ)…さん……」
「…………」
 ささやくみたいにわたしを呼んだ準の指がわたしの髪にささる。
「本当だ……。ふわふわ……」
 耳元でくすりと笑われて。
 準の胸の筋肉がきゅっと動いたから。
 準にサーブ権が移らないうちに、燃えだした頬をそのままに、ダッシュで離れてあっかんべー。
「………ぁ…」
 わたしがいなくなって。
 わたしの形にまるくなったままの準の腕。
 そこがわたしの場所なら、わたしたちは今のまま先に進めるよね。
 宙に浮いた小麦色の指の先からハンカチを取り返す。

「ねぇ。わたしがガキになるほうが早いよ、準ちゃん」
 準は眉を片方だけもちあげて。
 短パンのポケットに両手をつっこんだ。
 わたしの大好きな生意気・準。
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