ささやきはピーカンにこだまして
「先輩、ずっとやさしくて…よかった」
 うひゃっ。
 それを言われると、また二紀(にき)に腹が立つ。
 あいつの『姉貴は部活になったら鬼』発言のおかげで、せっかく大量に勧誘できそうだったのに、騒ぎのあともどってきて名簿に名前を書いてくれたのは令子ちゃんだけだった。
 二紀のやつ。
 また2年間いっしょかと思うと憂鬱。
 あいつといっしょになると、いつだってわたしのほうが《八木(やぎ)くんのお姉さん》。わたしなんて山羊のメーメだから……。

「そういえば先輩。八木くんに頼んでみたらどうですか?」
「はぁ? 二紀に?」
「はい。八木くん、すっごく友だち…多いから」
 そうか……。
 二紀、ねぇ。
 うーん……。
 中等部と高等部に離れていた1年間のあいだに、聞こえてきたうわさだけでも信用ならん男だけどなぁ。
「あのー、わたしたちも勧誘…ちょっとは、がんばってみますけど」
「…………」
 あらら。悲壮な顔しちゃって。
 いいんだよ、無理しなくても。

 バドミントンに男子を誘うのは、むずかしいよね。
 子どものころから気軽にしてきた[遊び]を、スポーツだと思い直させるのはとてもむずかしい。
 わたしだって、たまたま通りかかった体育館から聞こえた音を、好奇心から確かめてみたあのときまで、バドミントンという競技があることすら頭になかった。
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