ささやきはピーカンにこだまして

 実取(みどり)は、普段着に体育館シューズ。
 わたしもジーンズという競技委員会のやかましいセンセが見たら、卒倒しそうなとんでもないふたりのゲームは、それでも思ったより接戦になった。

 軟式テニスが身体に染みこんでいるはずの実取が、あれよあれよというまにノーバウンドでの返球やオーバーヘッドのレシーブに慣れてきたのには、わたしも結城先輩も、ただただビックリ。
 先輩は途中から、すっかりジャッジそっちのけで、1球ごとにあーだ、こーだ、実取のコーチに専念し始めて。
 言われたことをすぐさま実行してみせる、実取の身体能力の高さに夢中になってしまったみたい。

 生意気な坊やをこてんぱんにする。

 最初のもくろみは、鬼そのものだったわたしですら、コートの外で二紀(にき)がついに頭をかかえて座りこんだとき、ちょっぴり鼻の奥がツーンとしちゃったけど。
 最後の1本も、それまでどおり。
 サービスで思いきり実取をコートの後ろに下げて。
 だんだんセンターへのもどりが早くなる実取に、ちょっと尊敬みたいな気持ちまで感じながら、カットで実取のバックにクロスショット。
 長い脚で食いついてきたのには、心底驚いたけど。
 ラケットに当たっただけじゃ、ボールと違ってシャトルは飛ばないんだよ、実取。
 ゲームセット。

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