ささやきはピーカンにこだまして
「ち…く、しょう」
 実取(みどり)はそのままフロアにくずおれて、立ち上がる気配もない。
 そんなに落ちこまれると……。
 ちょっとズルした手前、素直に喜べないよ。
 (ま…いったなぁ)
 へこませてやろうと思っていたはずなのに。

 結城先輩が、コートにぽつんと立っていたわたしに、すっきりした笑顔を見せてネットをかたしはじめる。
「いいゲームだった。楽しかったよ、実取。――テニス、がんばれよ」
 結城先輩!
 実取もびっくりしたように顔を上げて、結城先輩を見た。
八木(やぎ)。……ま、そういうことだ」
 先輩が照れくさそうに眼鏡のふちに、ちょっとさわった。
「せんぱ…い……」
 わたしもうなずいて、ネットをたたむお手伝い。
 そうですね。
 だから先輩が好き。
 大好きです。

「姉ちゃん……?」
 二紀(にき)が、おずおずと声をかけてきた。
 どことなくホッとしているようなのは、結城先輩の『テニスがんばれよ』のせいだろう。
 ごめんね、二紀。
 姉もちょっと反省しております。
「いいから、お帰り。お昼休み、終わっちゃうよ」
 コートに座りこんでいる実取をつれていきなさいっていうわたしの目の合図を受け取って、ぱっと二紀がフロアから立ち上がる。
(じゅん)、行こ」
 返事はない。
「準。準たらっ」
 二紀に肩をゆすられても、相変わらず実取はフロアに座りこんだままで。
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