ささやきはピーカンにこだまして
 あの子ったら。
 なにも考えず、ふたりのほうに一歩ふみだして。
 わたしは結城先輩にやさしく腕をつかまれた。
 先輩は黙って、よせ…って首を振る。
 ―――はい。
 (あーもう)
 先輩をこんなに、いたたまれない気持ちにさせるなんて。
 早く立ち直ってよ、実取(みどり) (じゅん)


 結城先輩とふたりでネットを倉庫に片づけながら気がついた。
「先輩、ラケット。――あの子に貸したやつ」
「おまえ……取りにいく勇気あるか」
 ない、です。
「考えてみたら、子ども相手に、ひどいことしちゃったよなぁ……」
 それは…そうなんだけど。

 テニスとバドミントンは、ラケットの持ちかたから違うし。
 片面しか使わないあの子のバックハンドを、狙いすまして攻めておけば、あの子に渡したラケットはガットがもうゆるんでいて、シャトルが飛ばない整備不良品だし……。
 わたしでも負けるわけ、なかったんだよ…ねぇ。

 くそ生意気でも1年生。
 しかも初心者よりもっと悪い、ほかのラケット競技の上級者。
 わたしのしたことは、まさに鬼。

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