ささやきはピーカンにこだまして
 暗い気分で先輩について倉庫を出ると、実取(みどり)はまるでお供の犬のような二紀(にき)をつれて、ドアの外に立っていた。
「ありがとうございました」
 結城先輩に頭をさげて、ラケットを差し出す顔はかたくて。
 なにを考えているのかわからないから、なにも言えなくて。
 それぞれが言葉につまるアリーナに「…した」のエコーが溶けていく。
 突然、実取が大きく息を吸って胸をおさえながら吐きだした。
 な…、なんだ、なんだ。
「で、練習はいつから出ればいいんです?」
 ――な?
(じゅん)! ……なに、ばかなこと!」
「うるさいっ。二紀は黙ってろ。負けたままでなんか、いられるか!」
「だって。もう硬式テニスのラケットとかだって、そろえちゃったのに。だいいち先輩たちになんて言うんだよ。だめだよ、準!」
「おまえはイヤなら、イヤって言えよ。自分の姉貴じゃないか」
「だって、準!」
 意外な展開。
 結城先輩が坊やたちの内輪もめを、やさしくレフェリーストップ。
「実取……。きみは、テニスでいくらでもすばらしい成果を残せると思う。こんなことできみをバドミントンに引きこもうとした、おれたちが悪いんだ。忘れてくれ」
「ご心配なく。別に、テニスに執着ないですから。おれはそれより……。それよりだれかに負けっぱなしなんて、がまんできない!」
 おお。
 これこれ、この目。
 この、生意気な目がよみがえれば、もう安心ね。
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