ささやきはピーカンにこだまして

 見ないふり見ないふり…と目をそらしたのに、実取(みどり)は軽やかな足取りで近寄ってきた。
「イチローさん、ちょうどよかった。今日、放課後つきあってくれませんか?」
 うわー。
 場所を考えろぉぉ。
 
「え、なに、どなた?」
「やだ、メーメの知りあい?」
「今、一路(いちろ)さんて言った?」
「…………っ」

 無言で吹きだしたのは桃子。
 そうだよ。
 こいつは「イチロー」って言ってるよ。
 ばかにしてぇ。
「校門で待ってますから。ね」
「――返事! してませんけど?」
「今日は練習ないし。イチローさん、どうせひまでしょ」
「…な」 
 決めつけられて絶句したわたしに、ついに桃子が声をあげて笑い出した。
「それはひどいよ、実取。メーメだってデートとか、あるかもしれないじゃん」
 そうだ、そうだ。
「桃子先輩。それ、本気で言ってます?」
 問われた桃子がわたしを見る。
 な…によ。
「ぷはっ」
 吹きだして壁をドンドンたたく桃子は、もう笑っているというよりひきつっている。
 ギャラリーがまたザワザワ。
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