ささやきはピーカンにこだまして
「あの、桃子先輩って?」
「桃ちゃんとも知り合い?」
 ぜーぜーと荒い息をしながら桃子が壁から振り向いた。
「その子、うちらの後輩。男バドの子」

「こんにちは、先輩たち」

 ぺこりと頭を下げた実取(みどり)に、またギャラリー熱狂。
「うそ、1年生?」
「やだ、カッコイイ」
「まじ? バド部?」
「――はい。先輩たちにはお世話になってます」
 実取は猫かぶりで返事をするし。

 もう。もう。もう。
 こういうところが、いやなのよ。
 天使の輪っかをツヤツヤ光らせながら、社交辞令の天才。
 天使の輪っかは天使のものよ。
 天使に邪心はないの。
 この悪魔め。
「ところで桃子先輩。メーメって、なんですか?」
 ぐふっ。
 おまけに好奇心まで強いとは。
「いいから。わたしは忙しいんだから。行くよ、桃子」
 桃子の腕を思いきり引っ張るのに、桃子の足は廊下にぴとりと張りついたらしい。微動だにしないとは。
「メーメって、言いましたよね?」
 にっこり。
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