ささやきはピーカンにこだまして
「メーメちゃん」
 返事は太腿(ふともも)への膝蹴り。
「…いっ、たぁぁぁぁぁ」
「用事がないならもう行きなさい。先輩を待たせるんじゃない」
「なんだ、二紀(にき)に聞いてるんだ。だったらイチローさんもコーチしてくださいよ」
「なんでよっ」
 ん、ももももも、もう!
 気安くひとの腕をつかむな。
「あー。返事した。イチローさんで」
「――――ぁ」
「…………」
「…………」
 なんなの、この子。
「はい、ごめんなさい。…じゃ真面目に。放課後はつきあってくれますよね」
「…………」
「……ね?」
「………ふぅ」
 ため息がでちゃう。
 おかしいのは、わたしもか。
 あっさり、この図々しさに慣れてしまった。
 …というより。
 二紀の大切にしている子だと思うと、腹を立てるより適当にあしらってしまうほうが平和なのでは? という結論に達しただけだけどね。
「もしかして二紀とラケットを買いに行くの? だったら店員さんに任せなさい。そのほうが確実」
 二紀はわたしのお小遣いをねらってるんだし。
 バイバイ。
「待ってくださいよ。シロートふたり、ほっぽりだすんですか」
「店具さんが親切にしてくれます」
「それは無責任だなぁ。ぼくらをバドに連れこんだ張本人でしょ、先輩は。アフターケアしてくれても、いいじゃないですか」
「いやだ」
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