ささやきはピーカンにこだまして
 こういうときばかり先輩かい。
 ふん。
「そんなこと言うなら、やめちゃおっかな。結城さん、なげくだろうなぁ」
「ちょっと」
 それ、どういうつもりで言ってるの?
「イチローさんが結城さんを見る目、ふつうじゃないですよ。ぼく、観察眼には自信があるんです。イチローさん、…好きなんでしょ? 結城さんのこと。二紀(にき)にも教えておきましたから。あいつもイチローさんには甘いけど。ひとつくらいは弱みを握っておかなくちゃ。ね?」
 …んだってぇ。
「あー。赤くなった。すぐ顔にでる。かわいいですよね、イチローさんて」
 こ…こ…こ…、
「こンの――…」
「ガキ? 言っときますけど、ぼく4月生まれですよ。イチローさん3月なんでしょ? 二紀に聞きました。あまりいばれたもんじゃないと思いません?」
実取(みどり)――っ!」
 やっと声が出たときには、実取はもう手を振りながら廊下をスタスタ体育館のほうへと歩いていた。
 (わたしってば……)
「わたしってば、ガキにいいように振り回されちゃって。ううう」
 生意気なやつ。
「く、そ、ガ、キ、がぁああ!」
 悔しさのあまり、床でドンドン足踏みをしだしたとき
 たったったったっ
 背後から聞こえてきたのはだれかの軽快な足音。
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