ささやきはピーカンにこだまして
 好きでもあこがれているだけ。
 手を伸ばすこともしないわたしを笑うセリフ。
 好きなひとのカノジョと比べられて。
 おまえなんか勝てるわけがないって。
 心底ばかにされた。

「美香さんは観客席にいる」
「…………」
 言いたいことはわかってる。
 わたしは見ていられなかった。
 結城先輩が負けるのを。
「イチローさんは…ここにいる」
「……っ……」
 吸いこんだ息が喉につまった。

 だから?
 だから、なに?

 わたしが結城先輩を好きな気持ちは、わたしだけのものだ。
 わたしがどんなふうに結城先輩を好きだって、それを他人にどうこう言われたくない。
 
 (じゅん)
 きみがわたしをなんと呼ぼうと。
 どんな態度を取ろうと。
 年下だと思って……。
 二紀(にき)の友だちだと思って、許してきた。
 でも、こ…れは、だめっ。
 これは許せないよ。


 バン! と大きく開けたドアからは一段と大きな拍手の音。
 わたしは黙ってなかに入って、背中でドアを閉めた。
 もう二度と。
 もう二度と絶対。
 きみにはかかわらない。
< 95 / 200 >

この作品をシェア

pagetop