ささやきはピーカンにこだまして
「あのなー、ヤギ」
「…………」
 真澄先輩が、チラッとわたしの背後に視線を流した。
 いやだ。やめて。
「オレと大輔は、小松と二紀(にき)のペアを見なくちゃなんねーし。だれも(じゅん)の相手がいないのよ。おまえ、頼むわ」
「いやです」
 やっぱり!
 なんでわたしが1年生の相手なんかしなきゃいけないのよ。
「男子部員、増えたし。いっくらだって、相手はいるじゃないですか」
「ばかやろう。試験前にヒマこいてるやつなんか、おまえ以外にいねぇじゃん」
「なっ…。それじゃ、わたしがまるで勉強してないみたいじゃないですか」
「してないだろ。おまえが試験勉強してるとこなんか見たことないって、小松と二紀が証言してるぞ」
 あ…いつらぁぁぁ。
 真澄先輩が、にんまり笑って、わたしの肩越しにうしろのだれかにVサイン。
「よし、(じゅん)。ヤギ、ひまだってよー」
「――っす」
 この声は……。
 振り向かない。
 ぜ――ったい!
 振り向かない。
「先輩! わたしはヒマだなんて言ってないです」
「いーじゃん。実はな、準のリクエストなのよ。おまえがいいんだと」
 ――え?
「二紀の姉貴だしな。ほかのえらそうな先輩たちより、やりやすいんじゃねえの?」
 わたしは?
 わたしの気持ちはどうなるんです?
 わたしはちっとも、やりやすくなんか、ないっ。
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