ささやきはピーカンにこだまして
「ちょっ……真澄先輩」
 待って。
 勝手に決めて、行かないで。
「あとは(じゅん)と話してな」
 そんなぁ。


 真面目に掃除はしているけれど、アリーナに残った1年生たちの視線は、ちらちらわたしたちを気にしている。
 気にしていないのは、令子ちゃんから図々しく、ゆすいできれいになったモップを受け取っている二紀(にき)だけだ。
 そんなことくらい自分でやれ、ばかもの。
「このごろ無視されてるから。ことわられると思ってた」
 図々しい子がもうひとり。
 無視されてるってわかっていて、なにを言いだしたのよ。
「美香さんのことなんか言ったの、謝るよ。だから…そういうの、もうやめて」
「…………」
 そういうのってなんなのよ。
 黙ってること?
 背中を向けてること?
 ふん。知るもんか。
「お願いだから。――どうしたら許してくれるの。もう勘弁してよ」
 勘弁してほしいのは、こっちのほうよ。
「その!」
 振り向いて。
 ぴしっと準の胸に指差し確認。
「そのタメぐちっ。――それやめて! わたしはあなたの先輩なのよ?」
「…………」
 唇をきゅっとかんで。
 うつむく準のおでこに、前髪がさらっ。
「…………」
 うう。
 これ。
 こ…れがダメなの。
 これであなたが百倍キライになっちゃうの。
 あなたが、わたしのスクールバスの王子様を思い出させるから。
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