声と性癖
ふっ……と、愛おしいものを見るように目を細めて見られる。
結衣は、ばくばく言う心臓の音には気づかない振りをして、お店のご主人にお猪口をもらいに行った。

受け取ったら、もう、仕方ない。
蓮根の席の机の角を挟んだ隣に座る。

「緊張していますね?」
「はい……。コールセンターって、お客様と直接お会いすることはないですから、ちょっと……。すみません。」

「どうして謝るんです?」
なんとなく……。

つい、緊張してしまって上手く話せる自信はないし、やはり、自分は裏方なのだと思っているから、なのだが。

「裏方なのに、こんなご挨拶……。あ、その後いかがですか?」
「大丈夫です。車の修理に時間はかかるみたいですけど。その間もあなたのおかげで、快適にすごせそうですし。」

やっぱり、改めて聞くと、少しかすれ気味の低くて甘い声だった。
声って、こんなに破壊力あるんだ。
意識していなくても、ぎゅっと胸がしめつけられそうだ。

「よかったです。」
「事故をしたのは、初めてだったので、いろいろ無茶も言ってしまった。先程、北条さんにも呆れられました。今後は、そういうことはしません。」
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