声と性癖
『蓮根先生…』
『はい?』
『っ…近い、です。』

仕事柄持ち歩いているレコーダーをまさか、こんな風に使うとは思わなかったけれど、とっさの思いつきには満足する。

『…それを紡いでいるこの唇、味わったらどんな気分でしょうね?』

蓮根はこの時の結衣を思い出す。

追い詰められた小動物みたいに、シートベルトに捕まっていた。

嫌なら、逃げればいいのに。

それすらしないから、追い詰めたくなる。
本音は違うんじゃないか。
口では嫌がっているけれど、実は求めているんじゃないか。
そんな風に思って。

この時、結衣の唇を指でなぞった。
結衣は、呆然としながら自分を見つめていただけだ。

『この、唇に唇を重ねて。そうだな、舌でも味わってみたい。それから、中に、舌を入れて…、あなたを思う存分味わったら…』
『っ…あ、いや、です。』

蓮根はぞくっとする。
それはひどく強い快感で。
なにもしていないそこが、熱を帯びて立ち上がってくるのを感じた。
< 54 / 270 >

この作品をシェア

pagetop