頑固な私が退職する理由

 翌日。
 私とまりこは今日もスリステの素材作りに奮闘する。
 昨日自分たちで撮影した写真を加工して、見映えする画像を製作するのが今日のメインミッションだ。
「愛華さん、チェックお願いします」
「おお、いいじゃん。すっごくかわいい」
「ありがとうございます! こっちのはちょっと大人っぽくしました」
「うん、素敵。さすがまりちゃん」
 まりこは色使いのセンスがよくて、女性向けの素材が得意だ。だからこそ自分の後釜にするつもりでこのチームに呼んだ。
「それと、モデル事務所から返事が来ました。スケジュール空いてるモデルさん、見つかりました」
「そっか、よかった。じゃあ押さえてたカメラマンにも確定したって伝えとく」
「お願いします! 施術をお願いしているネイルサロンには私から連絡を入れておきますね」
 私がいい返事をしたから安堵したのか、彼女は嬉しそうに笑って少し離れた自分の席へと戻っていった。
 後輩のまりこがとてもいい仕事をするのだから、先輩の私も負けてはいられない。
 いい刺激をもらい、私のマウスを動かす手に力が入った。
「お、いい感じじゃん」
 背後から聞こえた女性の声に振り返る。そこにいたのは私の尊敬する先輩、菊池雅美(まさみ)さんだ。
 私たちと同じくウェブデザイナーで、黒髪のショートボブに大ぶりなピアス、そして濃い色のリップがトレードマークの姉御肌。年齢ははっきりとは聞いたことがないけれど、青木さんより何年か先輩だ。
 5年もあれば私や青木さんのように髪型やメイクなど見た目の雰囲気が多少変わるものだが、彼女は私が入社した当時からまったく変わらない。
「ありがとうございます。まりちゃんが作ったのもすごくよかったので、見てあげてください」
 私がそう返すと、菊池さんはなにか含みのある笑顔を浮かべた。
「沼田もいっちょ前に先輩なんだねぇ」
「そりゃあ、もう6年目ですから」
「しみじみしちゃうなぁ。昔はブリブリのぶりっ子だったのに」
「ちょっ……それはもう忘れてください!」
 菊池さんはケラケラ笑いながら私をひと通りイジったあと、声を絞って尋ねる。
「で? 青木とはどうなの?」

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