緩やかなオレンジ

「俺、嫁が妊娠したのを知ってもギリギリまで入籍しなかった。だから母さん近所には報告し辛いのかも」

慎吾がさらりと言うから驚いて一瞬頭が真っ白になる。

「なんですぐ入籍しなかったの?」

「本当に俺の子か分かんなかったし」

「え?」

「たった一回しかヤッてねーのに妊娠したなんて言われても困って。でも話し合って入籍した。来月子供が産まれるからあいつは実家に帰ってる。だから俺も実家に帰ってきた」

「………」

10年という年月は慎吾を想像以上にクソ男に変えてしまったのだろうか。

「奥さんのこと愛してないの?」

「わからない。そもそも向こうが近づいてきたから寝ただけで俺は好きって感情は無かったから」

「だから責任も取らないで入籍拒否?」

「こんな俺と結婚したら不幸になるし。まさか一回で妊娠とか驚くじゃん」

「最低……」

思わず声に出てしまった。

「知ってる」

慎吾は怒るでもなく静かに言葉を返してくる。

「子供ができるのって奇跡なんだから……奥さん大事にしなよ……」

声が震えてしまう。こんなつもりじゃなかったのに、慎吾を責めるような声音をコントロールできない。

「先輩とうまくいってないの?」

慎吾の質問についに目から涙が溢れてくる。

司さんと結婚して3年。未だに妊娠できない。

「私たち夫婦に子供はできないかもしれない……」

「へー」

慎吾は興味ない声を抑えようともしない。

「だから司さん、他の女の人と子供作ってる」

初めて横で息を呑む気配がした。

「正確には子供を作る行為、ね」

「先輩、浮気してんの?」

「うん」

子供は二人欲しいね、なんて司さんが最後に言ったのはいつだっただろう。

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