緩やかなオレンジ
「うわ……気持ち悪いな。そんな人だとは思わなかった」
どの口が、と慎吾に呆れた視線を向ける。
奥さんを大事にしていないのは慎吾も同じだろうに。
「裏切られても離婚しないんだね」
「うん。負けた気がするから」
離婚を決断したら今まで司さんと過ごしてきた時間を否定するような気がしてしまう。
「先輩のこと愛してるんだね」
慎吾の言葉に涙がスッと止まった。
司さんを愛している? 本当にそうだった?
恋も知らないうちに彼氏になって、初めて体を重ねて、結婚して。誰かに大切にされる感覚は心地良かった。
司さんが浮気していると知った時は悲しかった。司さんの中で私は一番じゃなくなってしまったのだと思い知って悔しかった。
だから子供ができたらまた私を愛してくれると思っていた。でもいつまでもお腹は空っぽだ。
私はただ幸せだと感じていたかった。
愛してくれる人を愛したかった。その人との子供を愛していきたかった。
そんな人生のパートナーになってくれたらいいなって漠然と思っていた相手は、私と司さんの交際に反対しなかった。だから私は司さんと幸せになりたかった。
いつの間にか空はオレンジ色に変わり、雲と雲が重なって黒い影ができている。慎吾の後ろには長い影が伸び、雑草にかかって歪な人型になっている。
「こんなゆっくり空を見たのは慎吾とが最後だった」
司さんは空なんて眺めない。
東京の空は汚い。綺麗な青空も夕焼けも、ビルで遮られて眺める隙間もない。
戻りたいな。10年前のあの日に。
「司さんを愛してるわけじゃないんだと思う……」
慎吾が首を傾げた。
「なんか、流された人生だったかも……」