緩やかなオレンジ
司さんと付き合うことも、結婚することも、何一つ自分で決断したわけじゃない。告白されて悪い気はしなかった。結婚するのも自然な流れだった。
自分で望んだのは妊娠することだ。無償の愛を注げる存在、愛を返してくれる存在が欲しいと思った。
「まあ俺もかな」
慎吾は丘の向こうを見つめる。オレンジに染まった慎吾の顔のパーツに合わせて影ができた。それが10年間知ることのなかった色気を纏わせる。
「美紀と付き合ってたら今こうなってなかったかも」
この言葉に再び目が潤む。何度も何度も考えたことを慎吾の口から言われて動揺しないわけがない。
「ぶっちゃけ嫁のことを好きなのかもわからないし、家庭を作って生活を支えていく覚悟もない。でも美紀がそばにいたら違ったかもって思ったことは何度もあったよ」
「うん……」
母親同士が親友で小さい頃からそばにいた。司さんを慎吾と比べて新鮮に思ったこともあったけど、心のどこかで慎吾のことを想う自分もいた。
「お互い離婚して一緒になろうか」
大袈裟なほど明るい声で慎吾に笑顔を向けた。無表情の慎吾も私を見返す。
「でも嫁を妊娠させて、入籍したばっかですぐ離婚なんて慰謝料すごそう」
「私が司さんから慰謝料貰えるから相殺できるよ」
「それもそうか」
再会して初めて二人で同時に笑った。お互いに心から笑える話ではないけれど。
そしてきっとお互いに本気じゃない。
改めて人生をやり直すことができないほど私たちは離れすぎた。
「こんな冗談言えただけでも楽になったよ。ありがとう」
10年ぶりに再会した幼馴染にする話じゃなかった。でも実家に帰ってきたことは無駄じゃなかった。
あの頃の私たちは不器用でも想い合っていた。