コイノヨカン
「父さんこそ何も分かっていない。渉さんと一緒にいて、私は幸せだったの。何で渉さんを悪く言うのよ何も知らないくせに」
今まで我慢していたものが、一気に溢れだした。

「栞奈、お前は酷い目に遭ったんだぞ」

ああ、誘拐事件のことね。
確かに怖い思いをした。
でも、すべてはすんだこと。
今さら誰も恨む気持ちはない。

「私がいいって言うんだからいいじゃない。父さんには関係ない。余計なことを言わないで。もう、放っておいてよ」
感情に任せて言ってしまった。

途端に父さんが寂しそうな顔になった。

少し後悔した。
でも、その思いに浸る時間は私にはなかった。
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