結婚した次の日に同盟国の人質にされました!
 ブラウベルク帝国の為に植物学を研究しようと思ったのだが、今は下積みを頑張るしかなさそうだ。ジルは気合を入れ直して木箱の中身と格闘を始めた。

「失礼します。……ジル様何をなさっているのですか?」

 特別棟での用事が終わったらしいマルゴットが研究室に入ってくる。
 彼女はフェーベル教授への挨拶もせず、木箱を漁るジルの方へとやって来た。

「マルゴット、ちゃんと教授に挨拶するのよ」

「あ……そうですね。お久しぶりです……」

「ああ、マルゴット君宜しく頼むよ。やる内容はジル君に聞いてね」

「かしこまりました……」

 マルゴットは何がそんなに気に入らないのか、言葉少なくフェーベル教授にペコリと挨拶する。そんな彼女に首を傾げつつ、ジルは説明する。

「マルゴット、悪いのだけど、私が読み上げる地名と数値を紙にメモしていってもらえるかしら?」

「はい!」

 フェーベル教授に対していた時とはうって変わって楽し気に準備するマルゴット。
 彼女も新たな環境に戸惑っているのかもしれない。

 二人で2時間程紙と格闘し、漸く昼を示す鐘が鳴る。

「俺はキリがいいとこまで書籍を読んでから飯を食べに行くから、2人は先に行ってていいぞ」

「あ、はい! 行ってきますわ」 「……」

 2人で研究室を出て、学生達でごった返す通路を歩く。

「サークルはどうだったの?」

「活動は小規模でしたが、間違った教えは広まっていなそうでした。ですが……」

 マルゴットはバツの悪そうな顔で俯く。

「どうしたの?」

「今日行ったサークルでもちょっと話題になったんですが、実は呪の使用の規制がかかったのです」

「規制?」

「はい。実は最近ブラウベルク帝国の南西部の村で魔女狩りが行われているらしいんです。それで目立つ様な術を使うなというお触れが上から出ておりまして……」

 魔女狩りというのは、この大陸の都市部では最近では無くなってきたのだが、300年程前は各地で頻繁に行われていた。マルゴットの祖先もそれで何人か亡くなっているらしく、魔女狩りに対して激しい嫌悪感を抱いているという事を以前話していた。

「何か原因があったのかしら?」 

「どうもその村では原因不明の痙攣や、妊婦の流産、手足の壊死等が何年も続いているらしくて……、怪しい行動をとる女を殺して鬱憤晴らししてるみたいなんです」

「証拠もなしに、それらが魔術によって起こされていると決めつけて、残虐な私刑を行っているのね?」

「人は理解出来ない事があると、何でも魔術のせいにしますからね」

 入試の際の事を思うと、マルゴットにツッコミを入れたい気持ちになるのだが、この話題がかなり重いため、軽口は言わない事にした。彼女の双眸は怒りをこらえるようで、僅かに潤んでいる。

(マルゴットが怒っているって事は、これが魔術のせいではないと思っているからなのかもしれないわ……)

「なので、その……。ハーターシュタイン大公への呪いは半端なものしかかけられなかったんです」

 少し話がずれた気がして、ジルは(おや?)と首を傾げる。
 でもマルゴットの本題はもしかするとこの話題なのかもしれない。以前お願いした大公への呪いについて説明したいらしい。

「どのような効果なの?」

「端的にいいますと、『不能』にしました」

「ふのう?」

 マルゴットの言葉がよく分からないので、聞き返す。彼女の頬はリンゴの様に真っ赤に染まり、恥ずかしそうな表情でジルをジト目で見上げる。

「つまり男性特有の行為を出来なくしたんです。つまり今大公は男とは言えない身体に……。強力な術だと感知されて、怒られてしまうので!」

 前を歩く男子学生が恐れおののいたような表情で振り返ったのを見ると、よほど恐ろしい効果の術だったようだ。

「大公を女性にしてしまったという事なのかしら!?」

「女性としての機能もないですので、大公は性としては『無性』と言えるかもしれません」

「凄いわ……。無性の生物になったのね。ねぇ、もしかしてそれって……。大公は子孫を残すために分裂するしかないんじゃなくて?」

「ええ……、ただ、大公は思考は単純ですが、体の構造が普通の人間並みに複雑ですので、分裂は厳しいかなって思います」

 マルゴットは神妙な顔で腕を組んだ。

「まぁ、効果は3か月程度のものしかかけれなかったんですけどね」

「充分よ。有難うマルゴット。貴女が居てくれて良かった」

「お役に立てて光栄です!」

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