結婚した次の日に同盟国の人質にされました!
「あの……。ハイネ様が帝都に戻られたのって、ハイネ様が居る必要が無いくらい戦況が優勢だからではないのですか?」

「違う」

 ハイネの顔を見上げると、少し悔しそうな表情をしていた。

(私が首を突っ込んでもいい話なのかしら? でもこの話題を持ち出したのはハイネ様だし……)

 心の中では祖国から離別したものの、ジルはまだハーターシュタイン大公の正妃だ。ブラウベルク帝国の皇子で、実際に戦地に行っていたハイネに質問しようという気にはなれない。
 2人無言のまま母屋のポーチまで辿り着いた所で、ハイネが立ち止まった。

「俺は皇帝に停戦を提言するために帝都に戻って来た」

「え……」

 ジルはブラウベルク帝国が優勢だという話しか聞いておらず、この国側から停戦を求める為に戻って来たと言うハイネの言葉が信じられない。茫然とハイネを見上げてしまう。

「戦地で精神的な異常をきたした兵士が多かったんだ。仲間の姿が、ハーターシュタインの兵士や、獣に見えていたらしい」

「それは……、どの様な原因だったのですか?」

「分からないから一度停戦しないとって思った。でも……」

 ハイネは何故自分に戦地の事をこんなに語ってくれるのだろうと、疑問に思う。信頼してもらっているとも考えづらい。

「『でも』なんですの?」

「親父に『腰抜けだ』って嫌味を言われて……」

 ハイネの声が弱々しくなる。もしかすると、皇帝である彼の父親に厳しく叱責され、ショックを受けてここに来たんだろうか?

「あの……。ハイネ様は良く考えられて判断されたのですから、皇帝陛下の嫌味なんか無視して堂々としていたらいいのですわ……」

「べ、別に俺は親父の言葉に傷ついたわけじゃない! 失礼な勘違いするな!」

 気を遣って慰めの言葉をかけたのだが、逆効果だったようだ。

「俺はただ、この先誰かの機嫌を取るために、無茶な判断をしてしまう事があるんじゃないかって、……一瞬でも思った自分に苛ついただけだ!」

 ハイネの視線が泳ぐ。多分ジルに話してしまった事を後悔してるんだろう。

(ハイネ様って、真っ直ぐな方なのね……)

 思えば最初からそうだったかもしれない。
 厳しい言葉をジルに投げて来たが、考えてみれば正しく自分が置かれた状況を説明してくれていたし、よくよく考えると嫌味に聞こえた内容は正論が多かった。

(でも自分が正しいと思う事を主張し続ける事で、一切の逃げ場がない様に思えてしまうようになったのかもしれない)

 だから、程々に距離感があるジルに会いにきたのだろうと予想出来た。

「ハイネ様!」

 ジルはハイネに出来るだけ明るく笑いかけた。

「な、なんだよ……。うわ! 顔を近づけるな! 恥ずかしい!」

 ずずいっとハイネに近付いたジルだったが、ハイネに肩を掴まれ、引き離される。

「あら、ごめんなさい! えっと……、その……。様々な考え方をする者達を複数傍に置いたらいいのですわ! そうしたら、ハイネ様と同じ考えをする者もいるかもしれません。全員意見が違ったら、主張をぶつけ合って、もっといい案にする事もできます。自分が公の場で発言する事にもっと……、もっと、自信が持てると思いますわ!」

 肩を掴むハイネの手に力が込められ、内心慌て始める。

(わっ!? 手が大きいですわ!)

「アンタは……てくれ……かよ?」

「はい?」

 ハイネは耳まで真っ赤にしながら、明後日の方向を向いた。

「……っ、何でもない」

「はい……」

 離れていくハイネの手。決死の覚悟でまくし立てたジルだったが、ハイネの返事をする声が小さすぎて聞き取れなかった。彼の様子を見ると、絶対に言い直さなそうだし、少しガッカリしてしてしまう。

「あの、夕食まで時間がありますし、温室に行きません?」

「何で?」

 自分が喋った内容を改めて思い返すと、踏み込みすぎた気がして、気まずさを誤魔化すために温室に誘う。

「ラナンキュラスが有りますのよ。温室の近くにはトマトを植えてます。是非見ていただきたいのですわ」

「ああ、手紙にイラストを描いてくれてたな。ちょっと気になる。行くか」

「はい!」

 ハイネはジルからの手紙をちゃんと読んでいてくれたらしい。フリュセンにいたハイネから2通程返事の手紙を貰っていたが、どちらも短文すぎて、ジルの手紙を読んでくれているか分からなかった。それだけに嬉しく感じた。
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