結婚した次の日に同盟国の人質にされました!
 2人でのんびりと温室の近くまで歩いて行くと、ガラスで出来た建物の手前にトマトを固定する棚が見えてくる。ちょうど黄色い花が咲く時期だったため、庭園の一角を華やかに彩ってくれていた。

「あれが、ハイネ様に買っていただいたトマトなのですわ!」

「へぇ……。植わっているトマトって初めて見る」

 間近に寄ってみると、ほのかにトマト特有の臭いがする。

「実はどこに付いてるんだ?」

「7月じゃないと収穫出来ないのです。花が咲いた後じゃないと実をつけませんから」

「なるほど、結構時間かかるんだな。このトマトから出来る種が改良版になるわけだな」

「ここに植えてるものは、全部食用にしますの。交配用は別で管理してます」

「そうなのか」

 ジルはこことは別に交配用にトマトを隔離していて、2種のトマトを昨日受粉させていた。そのトマトは、温室の個室に2種を隔離して植えているからここからは見えない。ラナンキュラスを見せる時にでも一緒に紹介したらいいだろう。

「トマトって、食べたらどんな効果があるんだ?」

「血管を丈夫にしたり、老化を遅らせたり、肥満防止にも効果を発揮したり、食べるとお医者様がいらなくなるくらい凄い野菜ですのよ」

「こんな細っこい茎と、薄っぺらい葉から出来るのに、意外な効果だな」

 ハイネは物珍しそうに、茎や葉に触れたり、土をすくってみたりしている。
 貴族の令嬢として育ったジルも、ハーターシュタインで初めて植物を育てた時、興味深い事ばかりだった。たぶんハイネも今何か新しい気づきを得ているのかもしれない。

「植物は本当に凄いですわ。私達が想像もしない効果を秘めていたりするんです」

「……」

 急に黙り込んだハイネに(おや?)と思い、その顔を覗き込んでみると、神妙な表情をしていた。

「ハイネ様、どうかなさったのですか?」

「アンタさ、人間に幻覚を見せる効果のある植物をどの位知ってる?」

 ジルは地面に腰を下ろすハイネに合わせて、地面にハンカチを敷いて座る。目線が近い方が話しやすい。

 ハイネの質問に対してまず思い浮かんだのは、この国で何故か人気の赤い傘に白い斑点が付いたキノコだ。

「フリーゲンピルツベニテングダケでしょうか? 幻覚を引き起こすはずですが、何故かこの国では食べられてますわよね?」

「そうだな。塩に漬けると大丈夫らしい」

「まぁ……」

 正直なところ、ジルはあの毒々しい見た目のキノコを食べるこの国の国民の気持ちが理解出来ない。
 毒キノコを食べなければならない程に、食糧が無い時代の苦肉の策だったのだろうか?
 隣の国だというのに、食文化がかなり異なるこの国の話は驚きに満ちている。

「フリュセン村で兵士に出されていた食事の中にフリーゲンピルツを使ったものがあったんですの? それの処理が甘かった場合、幻覚症状が出てもおかしくないですわ」

「どうかな……。俺は食べなかったと思うけど。あのキノコの毒性は一応この国で周知されているから、戦地では少しでも身体に悪影響がありそうな食材は抜く様にしているんだ」

「じゃあ、幻覚症状の原因はキノコではなさそうですわね」

「でも末端の兵士は監視下にない所でその辺に生えているキノコを適当に食ってた可能性もあるかもしれない」

「異常行動を起こす兵士が相次げば、兵士達の中で、そのキノコの危険性の再確認がされるんじゃないですの?」

 兵士達も思考力ある人間の集団だ。異常事態が起きているのに、原因と考えられる物を食べ続ける者がいるとは考えづらい。

「四六時中行動を監視していたわけじゃないから、そこは何とも言えない。バシリーを使ってもう一度兵士達の食事を調査させるか」

「あの! もしメニュー表みたいなのをまとめてあるようでしたら、私にも見せていただけないでしょうか? 他に何か原因が無いか自分も調べてみたいのです」

「当然メニュー表はあるはずだ。メモ好きな人間が多いからな。興味あるなら、バシリーにでも届けさせる」

「有難うございます!」

 戦争が停戦する程に大きな影響があった幻覚症状について、ジルは自分なりに調べてみようという気持ちになっていた。魔術的な影響という事も考えられるため、一度マルゴットに相談してみてもいいかもしれない。

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