【完結】偽り夫婦の夫婦事情〜偽りの愛でも、幸せになれますか?〜
「んんっ……」
棗さんはわたしの両手を握りしめたまま、激しく体を揺らして、そのまま理性をふたりで手放した。
「……愛している。聖良」
「……はい」
棗さんが優しく頭を撫でてくれた。……その時ふと思い出すのは、初めて棗さんに抱かれた時のことだった。
棗さんと結婚して初めて棗さんに抱かれた時、棗さんはわたしを妻として見てくれていたのかさえ、分からなかった。……ただ結婚して、わたしが妻になったから。だから抱いているのだと思った。
棗さんは初めてわたしを抱いた時、わたしのことを名前で呼ばなかった。……名前を呼ばれることなく、夫婦としての営みを初夜の日にしたのだった。
気持ちよかったかなんて覚えていない。……ただ1つ覚えているのは、「お前はもう俺の妻になったんだ。これからは妻として愛してやる」
そう言われたことだけだった。だからわたしは、彼のことを夫として愛することは出来ないかもしれない。……あの日の夜、本当にそう思った。