偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─
やっと気持ちがビジネスモードに戻り、与えられた役目に集中する。とは言っても、一緒にエレベーターを上がって社長室へご案内するだけだけど。
エレベーターホールには向かい合って六つの扉があるが、この日はたまたま、商品開発部へ企業見学へ来た外国人が四十人ほど来訪しており、順番待ちの状態となっていた。
「あはは……八雲さん、すみません。少しお待ちくださいね」
振り向いて人で溢れたホールの状態を見せると、彼は首をかしげる。
「それはかまいませんが。……ここではなく、北側にもエレベーターがありますよね。そこから行けませんか?」
彼の指摘に、ギクッと肩が上がる。実はまだ勤務を始めて数週間の私は、この本社の構造をよく把握していないのだ。
都内に三つに分散していた部署ごとの建物がこの新しいオフィスに本社としてまとめられたのがつい一年前で、幼い頃に会社に連れてこられた記憶が残っているが今では無意味だ。