偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─

その人は受付嬢ふたりが手一杯になっている受付カウンターに並び、自分の番を待ち始める。

私は『男前だからすぐにわかるよ』という父の言葉を思い出し、ハッとした。
男前なんて主観だからわからないよ、と思っていたのに、彼で間違いないと確信を持ち、「八雲さんですか?」と近付いて声をかけた。

「はい。Y.SPACEの八雲です。金森社長とお約束しているのですが」

声も滑らかで素敵で、ゴクンと喉が鳴る。

「お待ちしておりました。社長室へご案内しますので、こちらへどうぞ」

手で指し示す方向に進んだ私に、彼は黙って付いてくる。背中が焼け付くように熱い。
仕事で来てくれているのになにをドキドキしているの、と浮わついた自分を叱りながら、平常心を装った。
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