偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─
目的地である社長室は十七階。
しかし、私が押したのは十階のボタンで、このエレベーターには十階までのボタンしかなかった。
「あ、あれ……?」
階数ランプがどんどん上昇し、あっという間に十階に到着する。
目的地ではないフロアのため私が固まっていると、背後から八雲さんが動き、先にエレベーターを出た。
彼は「フッ」と薄ら笑いながらドアを押さえ、まだ中に立ち尽くしていた私を振り返り、
「このエレベーターは東側ですよ。東のは十階までしか上がれません」
と告げる。
うそ! 私より詳しい。
恥ずかしくなってうつむき、顔を熱くしながら「すっ、すみません……」とそそくさとエレベーターから出る。
「あっ、じゃあ、北側のエレベーターに向かいます……」とつぶやくが、東がわかってもなお北がわからない方向音痴の私。がんばって涙腺を引き締めるが、やがて瞳が潤みだした。
ダメだ。こんなことで泣くな。