偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─

明らかにすでに泣いているのに笑顔で「こちらです」と案内し続ける私を、八雲さんは顔色ひとつ変えずにじっと見つめている。

引いてるのかな。ああ、今月からの新人といえど、私はお客様をご案内することすらできないなんて。父の大切なお客様を幻滅させてしまった。

ズタボロの気持ちのまま、左手を壁際にして歩き続ければいずれ必ず北へたどり着くはず、と信じ、私は本当に左手を壁につける。

すると背後で「北はね、振り向いて右です」とささやかれ、さらにいたたまれなくなった。

「す、すみません……」

もうこれ以上かく恥は残ってなくて、おとなしく振り向くと、対面した彼は相変わらず笑みを浮かべている。

……あれ? 振り向いて右って、振り向く前の左じゃない?
わざわざ泣き顔を見るために振り向かせたのかな。この人、意地悪!
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