偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─

午前九時。凪紗は朝食を終えてからは寝室で過ごしている。おそらく眠っているのだろう。食が細くなってから体力が落ちており、眠る時間が増えた。

気にしてはいけないと自分に言い聞かせ、俺はリビングの一角でさっそく仕事を始めていた。

チェアーに座り、真ん中のモニターを点けたところで、このツーベッドルームへの扉が外からノックされた。
ここへ訪ねてくるのはランドリーサービスかルームサービスしか覚えはないが、今はどちらも頼んでいないはず。誰だ?と不思議に思いながら、俺は腰を上げた。

警戒して扉を開けると、飄々とした男が「やっほー」と手を振って強引に中へ入ってくる。

「本村。なにしに来た」

こいつは少々思い立ったら即行動に移す癖があり、事前の連絡もないことに俺は眉根を寄せた。

「退屈してるだろうと思ってちょっと顔見に来たぜ。凪紗さんは?」

「隣の部屋だ。たぶん、寝てる」

そうか、今日は定休日か。曜日の感覚が薄れていた。
退屈なのはお前だろ、とひと睨みした。

「そうか。言っておくけど暇だから来たわけじゃないぞ。休みだけど今日もアポが入ってるから、これから事務所に行くところだ」

「なら道草を食ってないでまっすぐ行ったらどうだ。俺の顔見たってなにも変わらないだろ」
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