偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─

凪紗の身の危険への心配が消えると、今度は彼女が俺の手元から逃げたという事実に戻される。

「冬哉に手記を渡そうとしていたんだな。しかも、バッグの中に本当に手記が入っているんだ」

内ポケットに手を入れた。裸のまま入っていた四つ折りの紙が指先に触れ、ゆっくりとそれを引き出してみる。

この紙。この字。歴史館で目に焼き付いた、祖母の手記に間違いない。
歴史を感じる紙の質感も、ここまで精巧なフェイクは作れないだろう。

「本物?」

「……本物だ」

取り返したかったもののうちひとつが手をの中に戻ってきたはずが、俺は紙を開く気さえ起きなかった。
本当に、凪紗と引き換えに、俺はこれが欲しかったのだろうか。

「ここからどうするかだな。この手記は商標権を奪うための材料にはちと弱い気がするし……。あれ? まだなにか入ってるぞ」

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