偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─

母は背後から、私の肩に自分が着ていたボレロを掛けた。

「凪紗……お腹は大丈夫?」

「あ、う、うん。それは……」

「お母さん、八雲さんのこと許せないの……。お父さんの様子がおかしいから、八雲さんにもなにか事情があったんだろうとは思う。でもね、凪紗にこんなことをするなんて、許せない……」

母から「冬哉さんを許せない」という言葉を聞くのはつらすぎて、私は大きく首を横に振った。

「お母さん、あのね、私ね……」

妊娠していない。そう告げようと切り出したところで、今度はさらに玄関から「凪紗!!」というおじい様の声がした。

「おじい様!」

足の悪いおじい様はこちらまで駆け寄ってくることはできず、私たちは玄関へ向かって駆け出し、土間にいたおじい様に抱きついた。

「ううう、凪紗、戻ってきたか、そうか、よかった、よかった……」

おじい様が泣く姿を初めて見た私は、ギュンと心が痛み、「ただいま」と背中をさすった。
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