偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─






四月。都内を包む風も暖かくなった。

私は新作のワンピースに春コートを羽織ってめかし込み、小走りで彼のオフィスへ向かっていた。

手には桜色の風呂敷、中には手土産の菓子が入っている。

「えっと、冬哉さんの休憩時間は……」

スマホに送られているスケジュールアプリの情報を再度開いて確認する。朝から十回は見ているが、念のため。お仕事中だったら大変だもの。

私は、金森凪紗(かなもりなぎさ)、二十三歳。
大手製菓会社『金森製菓(かなもりせいか)株式会社』の社長令嬢だ。

金森製菓は、祖父が始めた前身の『カナモリ菓子店』から創業五十年になり、現在は主要都市に必ず販売店舗が置かれ、大型デパートには専用コーナーが設けられている。

中でも、門外不出のレシピで作られる創業からの銘菓『はなごころ』は、老若男女問わずファンの多い不動の人気商品だ。
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