偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─
目的地である東京郊外の静かな土地に建つ建物にたどり着いた私は、捻れたジェンガタワーのようにアーティスティックな三階建ての外観を、いつものように惚れ惚れと眺めた。
自動ドアの中に踏み入れると、天井までドーナツ型に吹き抜けた造りが日の光を取り込み、中の真っ白と木目調の内装が明るく照らされている。
「あ、凪紗さん? こんにちは」
入ってすぐ、通りかかった社員の本村さんに声をかけられ、私は「こんにちは」と会釈をする。
親しみやすいふわりとした茶髪にクリーム色のジャケットを着た本村さんはここに所属する建築士で、冬哉さんとは大学の建築科の同期らしい。起業当初から一緒にやってきた右腕のような存在なのだとか。
オフィスにはほかにも経理の女性スタッフやアシスタントさんなどデキる人たちが集まっており、この会社を束ねる冬哉さんは本当にすごい人なんだと実感している。
「冬哉は上だよ。呼ぼうか?」
「あ、いえ! 私が上に行きます」
断ると、今度は本村さんはニヤニヤしながら、風呂敷を持つ私の姿を上から下まで観察してくる。