偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─

喧騒が聞こえなくなるほどの胸騒ぎに支配されたそのとき、ハンドバッグのポケットに入っていたスマホが「ピリリ」と音を立てた。

正気に戻り、画面を確認する。

「えっ……!?」

映し出されていた『八雲冬哉』の文字を見て、頭の中のモヤが吹き飛ばされる。もうあちらから連絡は来ないと思っていた。
しかし、悪いことを宣告される予感も拭えない。

騒がしい薬局から離れ、隣の不動産屋の前に立ち。震えの止まらない指でどうにか通話をタップする。

「……は、はい」

怖くて、耳から数ミリ離した。

『凪紗? 久しぶり。急に電話して悪いな』

声を聞いただけで、涙が滲み、口もとを手のひらで押さえる。
< 67 / 211 >

この作品をシェア

pagetop