偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─

「彼氏の元カノ見ちゃってさぁ、自信なくなってきたんだよね。私より絶対かわいかったんだもん」

「えー、そんなことないよ。ほら、このティントすごく発色いいから試してみな。気分変わるよ」

ティントのキャップを外す音がする。
最近まで私も、冬哉さんに会いにオフィスへ行くとき、心を弾ませながらとっておきのカラーを選んでいた。

大好きな人に好きでいてもらいたいという気持ちは同じなのに、薬局へ来た目的が彼女たちとはまるで違い、ふいに自分の行動に違和感を覚えた。

あと少し、奥へ手を伸ばして検査キットを買うだけなのに、急に心臓の不穏な音が大きく鳴りだし、不安に襲われる。

十日も経ったのだから間違いない。私は妊娠している。陽性と出るに決まっている。
結果が出ればまた冬哉さんと一緒にいられるのだから、なにも悩む必要はない。……はず、なのに。

手が、伸びない。
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