偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─
訂正しなければ。差し迫る感覚が喉元まで込み上げたが、その瞬間、スマホの向こうで聞こえた『やったな、凪紗』という歓喜の声に、グッと言葉を飲み込んだ。
「あ……は、はい」
『ありがとう。俺もうれしいよ。これでもう、誰にも邪魔されない。これから凪紗の家に報告しに行っていいか?』
「え。これからですか?」
『ああ。社長と奥様、ご自宅にいる? あと、おじい様も』
冬哉さんが迷いなく話を進めるせいで、私は彼の言う通りにしか物を考えられなくなった。
しかし、妊娠をしたと話したときの彼の上機嫌な様子は、私の心を喜びで満たすには十分だった。
薬局から遠ざかった足は最寄駅の方向へと向き、冬哉さんとの未来のために歩きだす。
「はい。私は用事を終えてまだ出先なんですが……父と母は家にいます。おじい様も、連絡をすればすぐに来ると思います」
『そうか。なら、連絡をして来てもらって。凪紗はどこにいるんだ? 拾いに行くよ』
「私は……ライトタワーの近くです。最寄り駅に向かって歩いています」
『わかった。見つける』
通話を終え、息をつく。
お腹がじんわりと温かい。キリキリ痛むそこを、大事にさすった。
妊娠しているはず。心配しなくて大丈夫。
空は灰色になり、雲の間からゴゴゴという重苦しい音が聞こえていた。