偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─
目の前を隔てる引戸を開け、奥まで続く廊下を突き抜けるよう、胸を張って「ただいま」と言い放つ。
すると客間の手前で言い合いをしていたらしい父、母、そしておじい様の声が「凪紗!」と揃った。それはすぐに足音ととなってこの土間へ近づいてくる。
最初に顔を出したのは母で、私の隣にいる冬哉さんを目にして「ああ、八雲さん」と心底安堵した顔をし、続いてやって来た父も、同じ表情をする。
「どうぞ入って」
しかし母が冬哉さんのスリッパを用意し、土間から上がるよう手招きをしたとき、遅れて玄関へ近づいてきたおじい様の「帰れ!」という怒号が飛んでくる。
母は私たちを庇うように立ちはだかった。
「お父さん。今回は、きちんと八雲さんと話し合うという条件でここへ来てもらったんですよ。約束を破るなら、お父さんだけ帰ってくださいな」
「なんだと!? 美佐子!」
まだ土間に立ったままの私たちの目の前で、玄関ホールの上ではおじい様と母の言い合いが始まった。
私はとにかく、先に冬哉さんに上がってもらおうと思い手を引いたのだが、彼はびくともせず、その場で私の手を握り返す。