偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─

これが境目だと感じた。今までの冬哉さんと、対峙している彼がまったく別人であることを痛感した。
私を支えていた彼との思い出が、ガタガタと音を立てて崩れだす。

「……冬哉さん。なにがあったのか私にはわかりませんが、大丈夫です。約束したこと、ちゃんと覚えていますから」

私に残されているのは、『なにがあっても、忘れないで』という彼にもらった確かな言葉だけ。すがりつくように、それを引き合いに出した。

「約束?」

「はい。なにをされても、冬哉さんが好きです。信じてついていくって、約束したでしょう?」

彼は私の言葉を「ハハッ」と笑って受け流すと、次の瞬間には〝呆れ〟を全面に出した歪んだ表情に変わる。

「まだそんなこと言っているのか。夢を見るのは自由だが、お花畑も大概にしたらどうだ」

「……え……」

「一週間ここから逃げ出さないのであれば、拘束するようなことはしない。隣の部屋はお前の自由に使えばいい。必要なものがあれば、俺に言え」

彼はそれで話を終えると、私をソファに残し、仕事を再開した。改めて三つのモニターを点け、真ん中に映し出された建物の3D画像をマウスでいじり始める。

放心した私は、言われた通りにすべての荷物であるハンドバッグを持ち、リビングから扉ひとつで続く寝室へと引っ込んだ。
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