偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─

祖父は地元では名の知れた大工で、代々続く家業を継いでおり弟子も多くいたが、商才に乏しかったため事業は徐々に弱体化していった。
短気なところがあるため、周囲の助けは借りず、引き受けると名乗り出てくれた工務店さえも(かたく)なに拒み、やがて廃業に追い込まれた。

俺を跡継ぎにすると意気込んで作業場に出入りさせていた祖父だが、家業を失うと塞ぎこみ、同時に俺に対する興味も一緒に失ってしまったのだと思う。

それを責める気も、慰める気も、俺にはなかった。

廃業と同時に借金を負った祖父を助けるため、祖母は近所の農家の手伝いを始めた。

野菜と触れ合うのは案外楽しいと笑って過ごす祖母が、とても信じられなかった。
祖母は損ばかりしている。
なぜ、そうやってヘラヘラと笑えるのだろう。

働こうとしない祖父を叱りつけず、口減らしに俺を捨てることもせず、すべてひとりで背負い込んで生きている。
俺だったら、もっと違う選択肢を取るのに。
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