偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─

そんなある日、学校から帰ると台所で祖母がなにか作っていた。
リンゴを煮詰めたような甘い匂いが漂っていたが、少し違う。嗅いだことのない匂いだった。

『冬哉。これ、食べてごらん』

畑仕事で荒れた祖母の手が、出来上がった菓子をのせた皿をこちらへ持ってくる。

皿の上の菓子は雲を手で丸めたような小ぶりの白い塊で、フォークで割ると白い生地がジュワッと音を立てて千切れ、中から黄色い蜜が出てくる、見たことのないものだった。

日々の食事だけでやっとだったこの家で、祖母が菓子を作るのは初めてだった。
なぜ今、こんなものを?

しかし柔らかそうなフォルムに失いかけた好奇心が疼き、俺は久しぶりに食欲を感じていた。
< 97 / 211 >

この作品をシェア

pagetop