偽装懐妊 ─なにがあっても、愛してる─

『いただきます』と言ってからフォークを持ち上げ、ひと口運ぶ。
滑らかなくちどけと、舌の上で広がる甘さ。

『……なんだこれ。美味しい』

初めての味への素直な感動を表した俺に、祖母は微笑みながらうなずいた。

『おばあちゃんの魔法のお菓子。雲みたいでしょう? 冬哉が元気になるようにおまじないをかけておいたの。……おじいちゃんにも、誰にも言ったらいけないよ。これは秘密のお菓子だから』

俺は元気だ。そう反論しようと思ったのに、口の中のジュワッとした感覚がそれをさせなかった。代わりになぜか乾いた目元に水滴が滲む。

『冬哉、おばあちゃんのそばにいてくれて、ありがとうね』

なぜ? 行くあてのない俺を引き取らざるを得なかったのは祖母なのに、お礼を言われた。

理解できず、いつものように祖母はなんて愚かなのだろうと蔑むのに、このときの俺は魔法のようなこの菓子のせいで、涙が止まらなかった。
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