政略結婚のはずが、極上旦那様に溺愛されています
 喉に声が貼りついて出てこない。今の話が漏れ聞こえていたのか、周囲の何人かがこちらを向く。

「結婚の話も、そういえばすごく急だったよね」

 ざわ、ざわ、と憶測と疑惑が広がっていく。

 なにも答えられなくて、目の前が真っ暗になるのを感じた。

 秋瀬くんは違う。だって、私をどう利用しようと言うのだろう。秋瀬くんの方がよっぽど優れたデザイナーで、私から引き出す情報なんてたかが知れているのに。

 でも、秋瀬くんは私の父が誰なのかを結婚する前から知っていたと言っていた。会社の情報を横流しする以上に、父を貶めるための材料を探していたのだとしたら。

 ああ、だけど秋瀬くんを結婚相手に選んだのはほかでもない私の父だ。秋瀬くんが利用しようとして私に近付いたわけではない。

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