政略結婚のはずが、極上旦那様に溺愛されています
 つまらない返しをした自分に苛立つ。これでは秋瀬くんとの会話がただの連絡だけで終わってしまうではないか。

「えっと、秋瀬くん」

 次の会話の糸口を掴めないまま、秋瀬くんの名前を呼んで電話を切らないでほしいと暗に伝える。

『なーに』

「そっちはどう? お父さんとケンカしてない? うまくやってる? おみやげはなにを買ってくれたの? ご飯はちゃんと食べてる?」

『一気に言いすぎ』

 笑い声が聞こえた瞬間、無性に泣きたくなった。

「だって、寂しいよ」

 絶対に秋瀬くんから言うだろうと思っていた言葉を、自分から言ってしまう。

 笑い声が途切れ、しばらく沈黙が降りた。

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