俺様社長はハツコイ妻を溺愛したい


蒼泉は車で来ていたので、彼の運転でマンションへ帰宅した。

話し合おうと決めたけれど、いざ二人きりになると、何をどう話せばいいのやら…。
でもまずは、言い過ぎだことを謝ってからだ。
いくら蒼泉にイライラしていたからと言って、彼を傷つけたことに変わりはない。
昨日母の話を聞いてだいぶ冷静になった頭で考える。

「蒼泉…この間は言いすぎた。 ごめんなさい」

「俺の方こそ、すまない。 俺の心配は重すぎたようだ」

しゅんと肩を落として彼は頭を下げる。
その姿に胸がちくりと痛んだ。

「今日、山倉に聞いたら『それはお前が悪い』と。 お前の心配は重い…とも」

相当堪えているみたいだ。
彼が背負うオーラが暗い。

私が言って、とっぱらわなきゃ。

「違うの…。 私の言い方が悪かったんだけどね、私はただ、あなたの隣を、あなたの妻として歩きたかっただけなの。 おばあちゃんに花嫁姿は見せたいし、曾孫も抱かせてあげたい」

彼の心配や気遣いは純粋なもので、蒼泉はそれを悪いと思っていない。ただただ私のことが大切で、それだけなんだ。
けれどそれが、時に私を窮屈にする時があるかもしれない。
だから私は伝えればいい。
彼に心から大丈夫だよと言って安心させてあげればいい。

「だけどね、蒼泉。 何よりも私が、蒼泉にウェディングドレス姿を見せて可愛いって言ってもらいたい。 子供だって、私がほしいの。 大好きなあなたとの子供がほしい。 今は、そう思っているのよ」

自分で口に出すと、こうも恥ずかしくて、照れくさい。
だけどやっぱり、伝えるって大事だ。
蒼泉が驚いた顔で私を凝視している。
信じられないというような表情だったのが、みるみるうちに明るくなっていく。

「蒼泉のお嫁さんとして、結婚式を挙げたい。披露宴では、このカッコいい人は私の旦那様よー!ってアピールもしたい」

「あやめ…それ以上は――」

「蒼泉は写真だけ撮れば良いって思うかもしれないけど、やっぱり私は、式を挙げたいな……ダメ…?」

ちらりと視線を送ると、頬を真っ赤にした蒼泉が、口元に手を当てて私を見つめている。

その姿にぶわっと私まで頬が熱くなってしまう。ああ、私、ものすっごい恥ずかしいことばっかり言ってるわ。

「写真で済ませるなんて勿体ない。 あやめの花嫁姿を一日中眺めていられるのは、結婚式や披露宴だけだろう。 この間は、俺の滑稽な独占欲で、心にもないことを言ってしまった。
本当は式も披露宴もやって、あやめの美しい姿をこの目に焼き付けたい」

独占欲…?
確かに今の言葉は独占欲に溢れている気もする。
ちょっと怖いくらいの愛を感じる。

「その時のあやめが綺麗すぎて、招待したやつがあやめに惚れるかもしれないと一瞬過ぎってな。そういった心配も含めて、あんな馬鹿なことを……そのせいでおまえを傷つけた。
本当に、すまなかった」

独占欲。 彼は私をそんなにも独占したいと思ってくれているの?

『俺は別に式も披露宴もやらなくていい』

あの言葉には、そんな意味も含まれていたなんて。

「…うん……あれは、ショックだった」

ここは正直に感想を述べておこう。
私も悪かろうと、ショックを受けたのは本当のことだ。
私たちはお互い、傷つけあってしまったんだ。
けれど今、その傷を拭いあったからもう解決。

うつむき加減になる私のもとへ、蒼泉が一歩近づいた。
くいっと顎を持ち上げて視線を絡ませると、そのまま口付けられる。

「ごめん。 もう二度と、傷つけない。 ……と言いたいところだが、正直、自信が無いんだ」

心底申し訳なさそうに眉を顰める彼を、くすっと笑う。

「だからあやめ、傷ついた時は傷ついた。嫌な時は嫌と言ってくれ。 これから先、俺のおまえへの重すぎる心配や気遣いを制御できるようにしたい」

独占欲を制御…ねぇ。
完全に制御されきっちゃうと、今度は寂しいんだけどな。
その辺は難しいから、その都度調整していくとしよう。

「分かった。 これからは私も、思ったことは直ぐに言う。 それでも、蒼泉のこと、傷つけちゃう時があると思うの。 その時は、蒼泉も言ってね」

「ああ。承知した。 お互い、頑張ろう」


私たちは微笑み合い、どちらからともなく唇をくっつけた。
もう、間にできた壁はない。
これからもきっと、壁ができても乗り越えていける。

ぎゅっとくっついた体を離すことなく、私たちは深く抱き合った。

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