俺様社長はハツコイ妻を溺愛したい
その晩は、母と祖母と一緒に眠った。
眠るまで、今度は祖母の惚気話を聞かされた。
相変わらず、亡くなった祖父が大好きなのだ。
翌日早朝、私は両親と祖母と久しぶりに食卓を囲んだ。
出汁からとったお味噌汁、白米、焼きじゃけ、だし巻き玉子、おひたし、納豆…と相変わらず豪華な朝ごはんだったけど、最高に美味しかった。
七時には、もう実家を出ようとしていた。
七時半にお店が開店するからだ。
今日はお店の手伝いではなく、蒼泉と話し合いをしなければ。
「じゃあ、行くね」
「おう。 またな」
やっぱりお見送りが呆気ないのは変わらない。
と、奥から母が大きな包みを持ってやってきた。
「あやめ、これ持っていきなさい。 蒼泉さんと二人で仲良く食べるのよ」
「はーい。 ありがとう」
多分、中身は母ご自慢の煮物やいなり寿司。
昨日夜な夜な作ってくれていたのを私は知っている。
然と感じた両親の愛情を胸に、私は清々しい気持ちで玄関のドアを開けた。
すると、すぐさまゴンッと鈍い音が聞こえる。
何事かと顔を上げると、額を抑えて顔を苦痛に歪めているのは蒼泉だった。
「あ、蒼泉!? なに、どうしたの? こんなところで………ひゃっ」
顔を見るなり、蒼泉は私を抱き寄せた。
ここ、実家! そんなことを心配する私はやっぱり薄情者だろうか…。
「もう、帰ってきてくれないかと思った」
心做しか、彼の声は震えている気がした。
「……それで、迎えに…?」
こくんと頷く蒼泉。
どうやら思っていたよりずっと心配させてしまったようだ。
心配の種類が違う気もするが。
「と、とりあえず、ここじゃなんだから…家へ…」
「帰ってきてくれるのか…?」
「ええ。 たった今、帰ろうと思っていたところで…」
言うなり、蒼泉は私から離れ、終始目撃していたであろう三人に向き直った。
「お義父さん、お義母さん、お祖母さん。 この度は、私が不甲斐ないばかりにあやめさんを家出させてしまい、申し訳ありませんでした」
なんか、見たことある。この光景。
台詞も状況も違うけれど、私の肉親に頭を下げる蒼泉を見るのは、初めてじゃない。
「いえいえ、そんな。 顔を上げてください。 久しぶりに娘と過ごせましたし、私どもも嬉しかったですよ」
まるで取引先とやり取りするかのような父と蒼泉の姿に、私と母、祖母は揃って吹き出した。
すると男ふたりは恥ずかしそうに頬を赤らめるのだ。 乙女のように。
「…ま、まぁ、あれですな。 これからもあやめを、よろしくお願いしますよ」
「ふふ。 私からも、お願いしますね」
「はい! こちらこそ、よろしくお願い致します」
もう一度綺麗なお辞儀をして、蒼泉は私を見て微笑んだ。
やっぱり見た事ある光景に、私は苦笑いを浮かべるのだった。