花束
「今日はどうしても会ってほしい人がいるの。だから連れてきた」

イザベラはそう言い、中庭へと華恋の手を引く。まさか新しい恋人でも紹介する気だろうかと華恋は身構えた。

「お待たせしました。こちらが花園華恋です」

バラの花が咲き誇る美しい中庭には、数人の男女が集まっていた。全員華恋の知らない人物で小学生くらいの子もいる。全員そこそこ若く、華恋の恋愛相手を紹介したいわけではないとすぐにわかった。

「イザベラ、この人たちは?」

華恋が訊ねると、イザベラは「驚かないで聞いてね」と先ほどとは違い、どこか泣き出しそうな顔をしながら口を開いた。

「この人たちは全員、萌音から臓器を提供された人たちよ。この人たちの中で萌音の一部が生きているの」

「えっ……」

華恋は、イザベラから視線を微笑んでいる人たちに向ける。萌音が生きている。この人たちの中で。唇が震え、目の前がぼやけていく。その人たちは華恋の前に立ち、それぞれ自己紹介を始めた。
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