DOLCE VITA  ~ コワモテな彼との甘い日々
彼、もしくは彼の家族がご執心なのだろう。
落ち着いた声の調子から、きっと優しそうな男性だろうと勝手に想像している。


「ショートケーキとモンブランを二つずつ、計四個でございますね。お引き取りは何時くらいになりそうでしょうか」

『七時ぎりぎりになってしまうかと』

「かしこまりました。七時に間に合わない場合でも、ご連絡いただければ大丈夫ですので」

『いつもありがとうございます』


実際、これまで辛島さんが閉店時間に間に合ったことはなく、わたしは彼と顔を合わせたことが一度もない。

しかし、古くからの常連さんで、オーナーは彼のために閉店時間を過ぎても対応している。


『では、よろしくお願いします』

(できることなら、最後に会ってみたかったなぁ)


そんなことをぼんやり考え、ハッとした。


(マズイ! お知らせっ!)


「あ、あのっ! すみませんっ、お伝えしたいことがっ!」

『はい?』

「じ、実は、諸般の事情により、ちょうど来週の金曜日……今月末で閉店することになりまして。辛島さまには、長年ご愛顧いただいていたところ、このように急なお知らせとなってしまい、申し訳ありません。ご来店いただいた際に、オーナーからも改めてご挨拶申し上げたいと存じます」


ようやく肝心なことを伝えられてほっとしたが、電話の向こうの辛島さんは動揺もあらわに呟く。


『閉店って……そんなっ……』


絶句する彼に、そんなにもオーナーの作るケーキを大事に思ってくれていたんだなぁと胸が「じーん」としたが、続けられた言葉に唖然とした。


『全部……全部くださいっ!』

「はい……?」

『注文を変更します。今月店に出しているものを全種類一個ずつください。焼き菓子も含めて。ああ、いや、待てよ、ショートケーキとモンブランは一個じゃ足りない。それだけは二個ずつに! それから、若干日持ちするアップルパイはホールにしよう。今月は、ピーチパイもあったはず。それもワンホールで! もちろん、焼き菓子もだ。パウンドケーキは一本……いや二本で!』


いろいろと、気になることはあった。

そんなに大量に注文して誰が食べるのか、とか。

どうせなら、毎日少しずつ買ってはどうか、とか。

いつも「ショートケーキ」と「モンブラン」一択だったくせに、店にある商品をすべて把握しているのはなぜなのか、とか。


しかし、それを口に出さないくらいの冷静さは、かろうじて残っていた。


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