終わらない夢
帰り道、翔と話しながら空を見る。紅く、紅く染まっている。
「なあ、咲也となに話してきたんだ?」
「…翔が無理してるんじゃないかって話。もう、そんなに頑張らなくても、ね」
うまく言葉が出てこなくて、もどかしい。こういうときにいい言葉を言えたらな。
「咲也のやつ、なに吹き込んでんだか。まあいいか。そうだ、俺が子どもっぽくしてたのは本当だ。…子どもだけどさ」
「うん。そんな気、してた」
「一度、やつらと話したんだ。そしたら、『ガキと話すヒマはない』ってさ。それからかな。こんなになったのは。とても、悔しかった」
「…」
「へへっ、情けないな」
悲しい笑顔を見せる翔は、白い歯を見せる。無理、しなくてもいいのに。なんでそこまで。
「そうだ。この話になったなら、ついでに分かったことを言おう。瑠夏は知ってるな?」
「うん」
「あいつの…瑠夏の義理の妹が、ハザードとつるんでるかもしれない」
一瞬、あの子のことがよぎった。いや…気のせいだ。そうに違いない。
「名前がたしか…『雪』」
「…っ」
ああ、同じだ。あの子の名前だ。
心のどこかで気付いていた。あの子が…雪が、なにかと絡んでいるのは。
「もう会わないって思ってたのに、ね」
「えっ?」
「ひとり、同じ名前で心当たりがあるの。残酷で、何もかも…前に一度、殺されそうになった」
「なっ……」
夢で見たのは、自分の周りが全て焼かれたような風景。そこで見たのは、たしかに雪の顔。
もし、雪がまだ私を狙っているとしたら?そうしたら、瞳が青い人を狙うことも分かる。雪は私の家庭事情を知っていたから、核家族を標的とすることにも頷ける。
「私を…まだ、狙っている」
「優奈?」
「私を…」
冷や汗が出てきた。心臓の音が近くで聞こえる。足に力が入らない。私はその場で座ってしまった。
「ゆ、優奈!大丈夫か?」
「あ、あ……」
そのとき、頭の中に女の声が流れてきた。
『新生活、楽しんでる?優奈の居場所は割り出せてるし、何をしているのかも丸わかり。あなたと同じものを持ってるからね。こっちまでおいでよ。久しぶりに話したいからさ。えへへ!』
気付いた時には、嘘のように頭の中には何も残らなかった。
同じものを…同じもの…もしかして、鈴のこと?思い出を映すこの鈴を介して、私に?
「ダメ…このままじゃ、殺される」
早急に手を打たなきゃ。探っている間に、私が殺されてしまう。それに、翔やお父さんにも危害が及ぶかもしれない。
「優奈、優奈!」
「な、なに?」
「落ち着け。独りじゃない。俺も、咲也もいる」
「でも、巻き込むわけには」
「俺の責任だ。俺の落ち度だ。とにかく自分を恨むのはナシだ」
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