運命の一夜を越えて
「明日仕事に行って、退職届を提出しようと思うんだけど・・・」
いつもならなんだって話をしてきたのに、今日は一言一言が緊張する。
「わかった。」
短い言葉で返事をする渉。

でも、決して怒っているわけではないとわかっている。
渉だってどうしたらいいかわからないんだ。

そして、もう私の気持ちが固まっていることを、察しのいい渉ならわかっているからこそ、私から決定的な言葉を聞くのが怖いのだと思う。

「すぐには退職できないから、一か月くらいは仕事の引継ぎとかすると思うけど、できれば在宅でできるように相談もしてみる。」
その言葉に渉がキッチンからソファの方に近づいてきた。

「先生に診断書をもらってすぐにでも辞める方法だってあるんじゃないか?」
私の前に膝をついて話す渉の表情は心配に満ちている。

「中途半端にやめることになっちゃうけど、できるところまではちゃんとやりたいの。」
こういう時、私の性格上責任を感じてしまう。
きっと私が今仕事を急にやめたとしてもいろいろと仕事はまわっていくとわかっている。
簡単に崩れるような職場じゃない。でも、今までやってきたことを中途半端で投げ出すことは嫌だ。それができないなら、できるところまでがんばりたい。
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